嘘吐きな王子様は苦くて甘い
それから数日間、旭君は荷物を持ってくれて。

菫ちゃんと風夏ちゃんにはちゃんと説明したんだけど、目を輝かせながら旭君との関係を聞いてくるクラスの女の子達にやんわり誤魔化しながら説明するのは大変だった。

家がお隣さんなんて言えばどんなことになるか、今までの経験からよく分かってる。

「紹介して」

「この手紙渡して」

「石原君のこと教えて」

こんな風に言われると困ってしまうし、辛い気持ちにもなるから。

だから今回も、曖昧に笑いながら嘘は言わないけどホントのことも言えなかった。






「マジでごめん!大倉さん!」

手首もすっかり治った頃、一ノ宮君が凄い勢いで私の机にやってきた。

「あの時、ホントは怪我してたんでしょ!?俺全く気付かなくて!」

オロオロする一ノ宮君は、今日も今日とて白シャツが似合う爽やか男子だ。

「ううん、大したことないから!もうすっかり治ったし。ホラ」

笑顔で右手首を回して見せる。

「いやでも、治ってから気付くとか俺マジであり得ねぇ!」

「そんなことないってば!気にしなくて大丈夫だから」

「マジでごめん大倉さん…」

「私の方こそ、なんかごめんね」

「何か、してほしいことない!?」

一ノ宮君は、責任感の強い人らしい。

「ホントに、大丈夫だよ」

「じゃあ貯めといて!何か困ったことあったら、いつでも俺使っていいから!」

一ノ宮君が真面目な顔でそんなこと言うから、思わず笑ってしまった。

「アハハ、ありがとう一ノ宮君」

「ホントごめんね大倉さん!」

パチンと両手を合わせてごめんなさいポーズをした後、一ノ宮君は自分の席へと戻っていった。

と思ったらまたすぐ私のところへ気不味そうに戻ってきて。

「すいません大倉さん…お願いが…」

なんてさっきとはうってかわった様子でまたパン!と両手を合わせた。
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