悪役令嬢はお断りします!~二度目の人生なので、好きにさせてもらいます~
第四章 シルフィが知らないアイザックの気持ち、マイカの気持ち
「どうしてこうなるの!?」
 授業が終わった後、私は旧校舎の廊下を全速力で駆けていた。
 幸いなことに旧校舎は普段立ち入り禁止なので、誰にもぶつからない。

 なにをそんなに急いでいるかというと、ゲーム内の『シルフィの親衛隊がマイカを旧校舎に呼び出して嫌がらせをする。
 それをシルフィが見つけ、共にマイカを糾弾する』というシナリオが発動したようなのだ。

 破滅エンドを回避するには、私がヒロインのマイカに近づきさえしなければいいと思っていたけれど、周りの女子生徒たちが彼女を放っておかなかった。

 世界屈指の大商会の令嬢とはいえ、王族でも貴族でもないマイカが、ウォルガーと一緒にいるのを快く思わない一部の女子生徒たちがいる。
 マイカはその女子生徒たちから、旧校舎に呼び出されたようなのだ。

「人生思いどおりにいかないことは、前世でも重々知っていたけれど。まさかこんな形で巻き込まれるなんて!」
 断罪、没落、追放、死亡エンドの四重の苦しみは絶対に嫌。こうなったら、破滅フラグに関わるシナリオはひとつひとつつぶしていくしかない。
 ちょっと走っただけなのに、脇腹に針が刺さったように痛い。転生してからお隣のウォルガーの屋敷まで行くだけでも馬車移動なので、運動不足なのだ。

「たしか、マイカたちがいるのは……」
 もつれる足をなんとか動かし、廊下の突きあたりの教室へと向かうと勢いよく扉を開けた。
 すると、そこに広がっていたのは、マイカがご令嬢たちから体を壁に押しつけられている光景だった。

 ギリギリ間に合ったか……?

 私はハラハラしながら、冷静を装うために微笑んだ。

「シルフィ様!?」
 四人は突然現れた私を見て、声をあげる。私がじっと見つめると、ご令嬢たちがたじろぐ。

「私の名を騙ってマイカを呼び出した人たちがいると耳にしたの。あなたたち、ここでなにをしているのかしら?」
「それは……」
「四大侯爵のグロース家である私の名を騙るなんて、不届き者がすること。あなたたちの家にまで被害が生じてしまいますよ。それに、私はこういう卑怯なことは望んでいません」
「も、申し訳ありません」
 彼女たちは目をぎゅっとつむり、身を縮こまらせながら手をきつく握りしめている。
 小さくわななく体を見て、私は深い息を吐き出す。

「今回の件は不問にします。次はありませんのでそのつもりで。もう帰りなさい」
 三人が深々と頭を下げて足早に立ち去っていく。
 よかった……これで悪役フラグをひとつ回避。
 ほっとひと息ついていると、「シルフィ様」と裏返った声で名前を呼ばれた。
「ありがとうございました。〝また〟助けてもらって」
「また?」

 あれ? 私、前にもマイカを助けたことがあったっけ?

まったく身に覚えがないので、首をかしげた。

「あ、あの……シルフィ様!」
 マイカは顔を真っ赤にさせると、私の方をじっと見つめた。

「助けていただいたお礼にお茶をご――」
「シルフィ!」
 マイカの声を遮るかのように、突然、私の名を呼ぶ声と足音が近づいてくる。
 弾かれたように扉の方へと顔を向けると、扉が開きアイザックが息を切らして立っていた。
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