政略結婚の甘い条件~お見合い婚のはずが、御曹司に溺愛を注がれました~
惑わせるのは冷ややかな敵


翌日、理仁が出勤するのと一緒に農園に向かった菜摘はその午後、郁子の仕事の合間を見計らって待ち合わせをしていた。彼女と最後に会ったのは、大地に扮して理仁の家に同行する前だから約三週間ぶりになる。

郁子たっての希望で青山のミレーヌが待ち合わせ場所。つい先日、理仁と訪れてチーフパティシエのエリカに紹介されたばかりのため、菜摘にしてみると少し居心地が悪い。エリカの様子がどことなくおかしかったせいもあるだろう。

(でも、エリカさんはきっと私の顔なんて覚えてないよね)

新作のケーキが話のメインだったから、菜摘は眼中にもなかっただろう。

(それにしても、どれもおいしそう!)

ひと足先に到着していた菜摘は、ずらっと並んだガラスのショーケースの前でどれにしようか悩んでいた。いっそ全部食べてしまいたいほど目移りする。
郁子が着いたのは菜摘がケーキをふたつ選び、カフェのテーブルに案内されたときだった。


「ごめん、お待たせ」


向かいに座った郁子は大きなトートバックを隣の椅子に置き、ふぅと息をついた。
< 235 / 307 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop