紅に染まる〜Lies or truth〜
兄妹


「おかえり」


「ただいま」


「機嫌・・・悪いのな」


「うん」


「そっか」


訳も聞かずに穏やかに微笑む兄は
もう一度「おかえり」と口にして
頭を撫でた


「今朝のクソデータ」


走り始めた車の中で
依頼のデータを手渡すと


「ククッ、クソな・・・確かに」


「・・・」


「でも、若の前では言うなよ」


「・・・」


あ〜そういうことか
その一言でデータの女が若頭の女になるかもしれないと全容を把握した

変にアンテナの高い自分に溜息が出る


「愛《あい》は可愛い」


ハンドルから手を離して
乱暴に頭を撫でる手が

そんな自分を理解してくれる
唯一の手に思えて

鼻の奥がツンとする


・・・ダメダメ


舌先を噛んで気持ちを切り替えた


「もう用済み?」


兄にとって必要なのはデータで
大澤の若頭の右腕の兄は忙しいはず

物分かりは良いはず


「三崎に来てもらうから」


そう言って携帯を取り出すと


「今日はずっと愛と居るよ」


信号待ちで助手席の私に片目を閉じた兄


「嘘っ」


「嘘なんか言わないだろ?」


「ほんとっ?」


「あぁ、どこでもお姫様の仰せのままに」


胸に手を当てて執事の真似をする兄に


「ありがとう一平」


シートベルトを外して抱きついた


「っ、ほらほら、お兄ちゃんは運転中だぞ?」


優しく頭を撫でられ
助手席に戻ってシートベルトを着けると

とっくに信号が青に変わって
隣の車線は車が流れ始めていた


「あ、ごめん」


「いいさ!この車にクラクションなんて鳴らさないだろ」
 

そう言って笑った兄は
ヤクザよりモデルのような
アンニュイな雰囲気を纏っていた













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