真夜中だけの、秘密のキス

Ⅰ 椿の姫



満月になりかけの月が、静まり返った部屋の中を照らしている。

月の色に染まった彼の髪に見惚れていると、不意に彼が首をかしげた。


「クラス全員からいじめられるのと、俺一人にいじめられるの、どっちが好き? ……選んで」


不可解な二択に眉をひそめる。


どっちも嫌、です。

そう言いかけた唇が、優しくふさがれた。
冷たくて柔らかな、彼の唇に。



何度も重ねられるうちに、罪悪感が溶けて消えていく。


今だけは。

あの人を忘れて、私だけを見てくれると信じて──。






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