真夜中だけの、秘密のキス

Ⅱ 二人きりのバレンタイン


──その夜。

一緒に住んでいる社会人の姉が、彼氏の家に泊まりに行くとかで、一人で夕食を済ませお風呂に入った。


久木君、本当に来るのかな?

ドライヤーで髪を乾かし、ドキドキしながら彼を待つ。


椿の姫に怒られないのかな。

……あ、だから家で会うのか。

彼女には内緒で。


そう気づいたら、急に罪悪感が襲ってくる。



インターホンが鳴り、モニターで確認してから恐る恐るドアを開けた。


玄関の壁に軽く背を預け、彼が立っていた。

長い前髪の隙間から艶やかな瞳が覗き、私の方へ視線を流す。


「久木、君」


ドク…と心臓が跳ねる。

モノトーンでコーディネートされた私服姿が新鮮で、頬が緩む。

好きな人に会えた嬉しさに罪悪感も吹き飛んでいく。


「どうぞ。……上がって?」

「お邪魔します」


礼儀正しく挨拶をし、脱いだ靴を揃える久木君。見た目に反して育ちがいいみたい。

リビングの前を通過し、奥の部屋へ案内する。


「家の人は?」

「姉は彼氏の家に泊まるから、今日は帰って来ないの」

「……そっか」


自分の部屋に久木君を入れてから、私は飲み物を取りに行くことにした。


冷蔵庫の中の、渡せなかったケーキ。
これもついでに、久木君に出してみようかな。
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