黒王子の溺愛
絶対に渡せない
「美桜ちゃーん、お願い、なにか食べさせて…。」
昨日と同じようにフラフラになりながら、部屋に来た颯樹に、美桜は笑ってしまう。

「お忙しいんですね。」
「んー納期が近くて…死にそう…会社から帰れないやつもいるし…。俺なんか、帰れるだけまだマシなんだ…。」

颯樹は、黒澤の子会社の一つである、IT関連の会社に勤めているのだそうだ。

とても忙しくて、時間はフレックスではあるものの、不規則でもあるらしい。

今までは、会社から近いこのマンションに、シャワーだけ浴びに来ていた颯樹だが、昨日の美桜のオムレツを食べて、すっかり気に入ってしまったのである。

「わー、今日着物じゃん、可愛いなー、お人形みたいだ。」
「もう、颯樹さん、大袈裟です。」

「本当だよ。柾兄、もうメロメロなんだろーなあ…。」
「そんなことはない…と思いますけど…。」

それでも、少しは柾樹も歩み寄ってくれているのかも、とは思う。
今朝は、…少しだけ、少しだけいい雰囲気だった。

「んな訳ないじゃん。じゃなかったら、あの柾兄が自分のパーソナルスペースの、このマンションに住まわせる訳ないでしょ。」
「そうでしょうか?!」

両手をきゅっと胸の前で握った美桜が、ずいっと、颯樹に詰め寄る。

「え…うん。そりゃー…。」
近いよ…美桜ちゃん…。
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