身ごもり婚約破棄しましたが、エリート弁護士に赤ちゃんごと愛されています
1.ひとりでも育てられます!



シチューは冷めてしまっていた。
修二の好きなじゃがいもとコーンのシチュー。仲直りのために作った彼の好物は、スプーンをさし入れることもなく終わりそうだ。
私と修二はダイニングテーブルを挟み、無言でうつむいていた。
言い合いは散々した。それは私たちが出会ってから数えれば数限りないやりとり。
だけど、私たちは何度もその喧嘩を収めてきた。謝り、互いを思いやり、もう一度ふたりで頑張ろうと伝え合ってきた。だから、今日までこれた。
でも、私は少し疲れていた。
彼も同じ気持ちだろう。
ここが限界なんじゃないか。私と修二の間にそんな思いが横たわっているのは、確実だった。

「陽鞠」

修二の私を呼ぶ声が好きだった。明るくハキハキした普段の修二が、私の名を呼ぶときだけ、声質が甘くなる。それは特別なことだった。

「俺たち、少し距離を置いた方がいいのかもしれないな」
「修二がそれを言うんだね」

私はずるい。私だって距離を置いた方がいいと思ってるくせに、決断を修二のせいにしようとしている。修二がふたりの決別を決定づけたことにしようとしている。
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