最後の一夜が授けた奇跡
第2章 ~忘れられなくて~
「泉崎さん、社長室にお茶出しお願いね」
「はい」
上司からの指示に私はコーヒーを淹れて社長室の扉をノックした。

そこはかなり広い一室で、大きな机とリクライニングチェアが置かれている。
部屋の中央には応接用のかなり重厚感のあるソファが置かれていた。

扉を開けて部屋に入る私に、律樹がちらりと視線を送ってきていることに気づきながら、私は気づかないふりをして、ソファに向かった。

小さく頭を下げて、まずはお客様からコーヒーを出す。
「ごめんなさい、私はコーヒーじゃなくお紅茶いただけるかしら」
お客様からの声に私はすぐに、出そうとしていたコーヒーをトレーに戻した。
「承知いたしました。申し訳ありません。事前に伺うべきでした。少々お待ちください。」
「おねがいね」
明らかにとげとげしさを感じるその声にちらりと声の主を見る。

そこには明らかにブランドの物で全身を身にまとった、同世代の女性が座っていた。
かなりあつく塗られた化粧は、私の濃さの数倍はある。
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