婚約破棄するはずが、一夜を共にしたら御曹司の求愛が始まりました
婚約破棄へのステップ4
 お気に入りのバスソルトをいれた浴槽に、紅はゆっくりと身体を沈めた。浴室内には、いつも彼女を癒やしてくれるカモミールの優しい香りがほわほわと漂っている。けれど、紅の心は重く沈んだまま、どうにも浮上できそうになかった。

「……はぁ」

 予想以上にダメージを受けている自分がいる。宗介を疑っているわけじゃない。なぜかはさっぱりわからないが、宗介は自分を愛しているらしい。そのことを疑う余地なんてない。
 あの写真が狙って撮られたものだということもわかっている。けれど……。

「お似合い……なんだもんなぁ」

 並んでいた宗介とモモは、美男美女で誰もが羨む理想のカップルそのものだった。抱き合うとかキスとか、そんなわかりやすいシチュエーションでなくても、ふたりは恋人同士に見えた。そのことが紅にはショックだった。

(私と宗くんは……きっと恋人同士には見えないよね。兄妹か、会社の先輩後輩とか……そんなとこだろうな)

 
「宗くん、変に思ったかなぁ」

 察しのいい彼のことだ。紅があの写真にショックを受けたことに、きっと気づいただろう。どう弁解したらいいのだろうか。
 そもそも宗介からの告白を曖昧なままにしている自分にショックを受ける資格などあるんだろうか。

「あぁ、もう!」

 頭も心も、モヤモヤぐるぐるするばかりだった。
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