偽りの花婿は花嫁に真の愛を誓う
第1章 女は度胸
ようやく気候も緩んできた三月の初め。
ウェディングドレス姿の私はその衣装とは対照的に、不安な気持ちで携帯の画面を睨んでいた。

「……」

画面に表示されている時計は、刻々と予定時間に近づいていっている。

「あのー、そろそろお時間が……」

「もうちょっと待って!
きっと来るから!」

控えめに声をかけてきたスタッフに半ば怒鳴り、苛々と携帯の画面をタップする。
目的の番号を呼びだし、携帯を耳に当てた。

――プルルルル、プルルルル……。

気持ちを落ち着けるように深呼吸しながら、呼び出し音を聞く。
モーニングの父も、黒留袖の母も、心配そうに私をうかがっていた。

――プルルルル、プルルルル……。

けれど、いくら呼びだしても相手は出ない。
まさか、事故に遭ったとか?
そんなことも考えた。
< 12 / 182 >

この作品をシェア

pagetop