誰よりも不遜で、臆病な君に。
人の欲には終わりがない
 クロエの孤児院運営に関する提案は、その後何回かの議論を経て、提案者を伏せられたまま、バイロンによって議会に通された。

頭から一蹴しようとする貴族議員に、バイロンはクロエが事前にやって見せた通りに説明する。

平民議員からは支持が得られ、貴族議員も一部は賛成へと転じ、次回もう少し具体的に話を詰めるということでまとまった。

「というわけさ。君、自分で説明してみる気はないかい? 今度は仕事としてだ。議会に出れるだけの立場が必要だから、私の補佐官という形になるがどうだろう」

バイロンからそう言われ、クロエは息が止まりそうになる。

現時点で、女性の補佐官はいない。それでも、内々にならばやれると思うが、議会にまで出席するとなれば話は別だ。
議会には父も兄も出席している。そこで、クロエが女性としては出過ぎたことをすれば、叩かれるのはあのふたりだ。

「駄目です。そんなことは……できません」

「どうして?」

「だって私は女ですし……」

「そうだね。孤児院の運営は領地を持つ貴族の奥方が主に担当するから、あまり男は関わらない。女性である君だからこそ説得力が増すのではないかと思っているのだが、どうだ?」

「でも……」

クロエは一度うつむいた。
反発してくる貴族たちを言いくるめることは、おそらくできる。
けれど、父や兄が彼らから馬鹿にされるのは我慢がならない。
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