魔法通りの魔法を使わない時計屋さん


「プライドって言いましたが」
「え?」

 カウンター上で羊皮紙に魔法陣を書いたり必要な道具を揃えたりと魔法の準備をしながらリリカが口を開くと、興味深そうにその様子を眺めていた彼は顔を上げた。

「私、時計職人のプライドって言いましたよね、魔法を使わない理由」
「あぁ」
「あれ、半分嘘でした」
「え?」

 彼が目を瞬く。

「もう半分は、私の意地なんです」
「意地?」

 リリカは苦笑しながら頷いた。

「私の両親は昔から魔女の才能のあった私に本当に期待していて、魔法学校を卒業するときに良い就職先からのスカウトを全部蹴って時計職人になることを選んだ私に『この親不孝者が! 魔法の才能しかないお前が時計職人になどなれるはずがない』って酷く怒って、あげく私勘当されちゃいまして」
「それで、魔法を使わないように?」
「はい。魔法を使わなくても、じぃじみたいな一流の時計職人になってみせるって、私の意地です」
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