「あれっ!?これどういうこと」

ラップトップの画面を見ていたマヤが突然声を上げた。

ソファの隣にいたマリアが、

「どうしたの?」

そう言って、画面を覗き込んだ。

「この歌手よ、Maarja。昔、マーヤって名前でCD出してたのに、今は表記がマーリヤになってるの!」

「ほんとだ」

「なんでよー!?私のあだ名と同じだから、中学のころジャケ買いしたのに。マーヤとマーリヤじゃ、完全に違うじゃない」

「…私達みたいなものよね。ていうか、このアルバム、あの頃よく聴いたから、なんだか懐かしくなっちゃった」

「そっか…」

そう言って、マヤは遠い目をした。

「特に共通点のなかった私達が、言葉を交わすようになったきっかけよね」

マヤがポツリと言うと、マリアは一瞬驚いたような顔をした。

「やだ…」

「え?」

マヤは怪訝そうにマリアを見つめた。

「だって…マーヤちゃん、もう忘れてるかと思ってた。マーヤちゃんはいつも他の、ちょっとやんちゃな私の同級生たちと仲良かったじゃない?あの頃…」

確かにそうだった。

二人は吹奏楽部の先輩と後輩だったが、パートが違うし、マヤはパーカッションだったため、音楽室とは独立した部屋で練習…というよりは、少しワルな先輩たちと遊んでばかりいた。

マヤは今も、もしOLなら許されないような派手なファッションだ。

当時からかなりの個性派、常に校則違反ギリギリの派手な格好をしていたが、男子とはベタベタしないタイプ…それどころか、告白されても片っ端から断っていたので、案外硬派たと思われたのだろう。派手な割に、先輩たちから反感を買うことはあまりなかった。

反対に、マリアはフルート担当で、おとなしく真面目な生徒で、友達もおとなしかった。

「そういえば、あの先輩たちとうしてるんだろう?マリちゃん、先輩たちと連絡とったりしてないの?」

つまり、マリアがひとつ先輩だった。

「正直、わたしは彼女たちとそんなに仲良くなかったから…」

二人とも、SNSが好きではない為、旧友の現在を知らない。

一緒に遠くへ引っ越したので、尚更だ。

反対に、あの頃の仲間たちも、まさか二人が恋に落ちて、今も続いていることは知る由もない。

「思い出の歌なのに、このCD何処か行っちゃった」

マヤがしゅんとする。

「私も実家においてきちゃったな…」

二人はなんとなく寂しい気持ちになったので、その日は早めに寝ることにした。


数日後。

「ただいま」

マリアが仕事を終えて帰ってくると、懐かしい音楽が部屋中に響いていた。

「おかえり」

今は書き物を生業としているマヤが、部屋で仕事をしていた。

「この歌…」

マリアが言うと

「へへ、急に懐かしくなったから、取り寄せちゃった。新品はもうないみたいだから中古だけどね。なんだか仕事が捗るよ」

音楽は不思議だ。

二人が出会ってから20年以上も経ったのに、初めてあいさつ以外の会話をかわした日へと、タイムスリップしたようだ。

北欧を感じさせるサウンドに、ワクワクするのに安心する。

それはまるで、初めての恋に落ちたときの感覚のようだった。

この作品のキーワード
恋愛  LGBTQ  日常  百合  純愛  駆け落ち  ビアン  一途な恋  先輩と後輩  アラフォー