転生夫婦の新婚事情 ~前世の幼なじみが、今世で旦那さまになりました~
「そうなんですね……どうしよう、何かお出しできるものあったかな」


 あと数分もすれば、ここにやって来てしまう。初対面の、しかも夫の親しい友人相手に粗相はできない。

 とたんに緊張してお茶菓子の心配をする結乃に、春人は平然と言った。


「向こうが勝手に来たんだから別に構わなくていい。さっさと追い出そう」
「そんなわけにはいかないですよ!?」


 そうして一応はふたり揃ってリビングに戻るも、結乃はソワソワとキッチンの棚の中身をチェックしたりして落ちつかない。

 するとまた、家の中にドアチャイムの音が鳴り響いた。ソファーから立ち上がった春人のあとに続き、鼓動を逸らせながら結乃も玄関へと向かう。


(春人さんの、お友達……)


 大丈夫だろうか。彼の妻として、認めてもらえるだろうか。
 ドキドキうるさい胸もとに片手をあて、深呼吸する。

 長い腕を伸ばして鍵を開けた春人が、「いいぞ」と外に向かって声をかけた。

 ──カチャリ。
 軽い音をたてながら、ゆっくりとドアが開く。そうして姿を見せた人物が、春人と結乃を視界に入れて笑顔を浮かべた。


「おっ、揃ってお出迎え? 手厚い歓迎ありがとう」
「そういうわけじゃない。来るなら前もって言え」
「悪いな。ハルがいつまでたっても招待してくれないもんで」
「するつもりなかったからな」
「ほらぁ、だから突撃訪問しかできないんだろ?」


 春人がこんなふうにくだけた様子で話す姿を見るのは、初めてだった。

 突然やって来たこの男性は、本当に彼にとって近しい存在なのだろう。目の前で気安い会話を繰り広げるふたりを、結乃は一歩後ろから呆然と眺める。
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