転生夫婦の新婚事情 ~前世の幼なじみが、今世で旦那さまになりました~
「ああもう、大人しくして!」


 焦れた様子で言ったかと思うとガシッと想定外に強い力で左手首を掴まれ、驚きに肩を揺らした。

 彼が動きを止めたその隙を逃さず、ユノはもう片方の手を伸ばしてハルトのひたいにペタリとあてる。


「……やっぱり。身体がかなり熱いし、脈も速い。どうしてこんな状態なのに、訓練なんてしてるのよ。熱が出たなら、ちゃんと医務室に来てもらわなきゃ!」


 そう言って、彼女が眦をつり上げた。


「……熱?」


 ユノの言葉は予想もしなかったもので、一瞬ハルトは目を丸くする。
 けれども、それで合点がいった。なるほど、普段より身体が重く感じていたのは、熱があったせいなのか。

 納得しつつ、とりあえず彼は答える。


「訓練は重要だ」
「そういうことじゃなくて!」


 ユノが放った『訓練なんて』というセリフにかけた返答だったのだが、望むものとは違ったらしい。さらに肩をいからせたユノを見て首をかしげれば、彼女は諦めたようなため息を吐く。

 そしてまた、ハルトをまっすぐに見上げた。


「もう……これだけ熱いなら、だいぶつらいでしょ? 肩貸したげるから、医務室に行くわよ」


 一度ハルトから手を離すと、地面に置いていた籠の持ち手を腕にかける。

 そうしてユノは再びハルトの手を掴み自分の肩に回そうとしたので、ぐっと力を込め抵抗した。


「……必要ない」
「あるから貸そうとしてるの。病人は看護師の言うことを聞くものよ」
「ひとりで歩けるし、そもそも医務室に行くつもりもない」
「何言ってるの! 今処置しておかないと、絶対あとからもっとつらくなるんだから」


 互いに一歩譲らないふたりは、近くを通りかかる者たちの視線も構わず不毛な言い争いを繰り広げる。

 ユノの微々たる力では無理やり引きずられるなんてことはないのだが、しつこく食い下がられているうちだんだんと疲れてきて抵抗するのも億劫になってきた。

 疲労からくる苛立ちのままに、ハルトは瞬間的に本気を出してユノの手を素早く振り払うと、逆に彼女の両手首を掴む。
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