メレンゲが焼きマシュマロになるまで。
「手作りのものっていいよね。同じものが一つもないところとか、既製品ほどの強度がないから、丁寧に扱わなければならないところとか、なんだか愛おしい・・・っていつもお母さんが言ってる。私もそう思うし。」

物が溢れている狭い作業部屋で壁に寄せた机の前に並んで立つ。作りかけの作品や材料や道具、参考資料の写真や本などを一通り興味深そうに見ると、彼女はうっとりとして言った。

「・・・お前も何か作ったりするのか?」

「うん。お母さんがハンドメイドやる人だからその影響で。フラワーアレンジメントとかスノードームとかアクセサリーとか。」

よく見ると、つけているカチューシャはハンドメイドっぽいし、ネックレスとイヤーカフも同じ感じだ。

「じゃ、その、幼馴染みへのプレゼント、自分で作ればいいじゃねえか。」

そう言うと彼女は少しばつが悪そうな顔になった。

「ええと、それはその・・・。あ、幼馴染みだけじゃなくて、旦那さんにもあげるプレゼントだし、私はまだまだ勉強中の身だから、ちゃんとプロの作品を・・・。」

「ふーん。そんなにこだわんなくても喜んでくれると思うけどな。それに俺だって胸張ってプロって言えるほどでも・・・『職人』ていうのも自称だし。でもそうやって強がってやってくしかねえからな。」

一つ落ちていたネジを机の上の箱に戻しながら言うと、彼女は俺の顔をちらりと見上げた。

「あの、やっぱり作ってもらうのは無理?私、使ってもらいたいモチーフ以外は何も言わない。お任せするから。ここに来て作品たくさん見せてもらったら、ますます作ってもらいたいなって・・・。」

「そんな風に言ってもらえるのはありがたいけど、やらないものはやらない。悪いな。」

「やっぱり駄目か・・・あっ、これって・・・。」

彼女が斜め右方向、つまり俺の目の前に身を乗り出して机の向こうにある壁に貼った外国の時計塔の写真を指差す。先程から思っていたことだが、彼女が動くとふわり、と砂糖菓子のような甘い香りがした。
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