蕾の恋〜その花の蜜に溺れる〜



あの日。



大ちゃんの部屋に戻って
ソファに座って膝を抱えていた私を迎えに来たのは祖父だった


・・・やっぱり


あの男の人の言ったことは本当だった

それだけが私の胸を苦しめた





□□□




家に戻ってから暫く放心状態でいた


・・・これからどうしよう

そればかりが頭を占領して
行く道が見えずにいた


・・・大ちゃんが好き


この気持ちをどうして良いのかすら分からない

これまでの生活を思い返してみても
大ちゃんとの思い出しか浮かばなくて

祖父から大ちゃんとお揃いで買ってもらったビーズクッションを抱きしめると

涙が溢れ落ちてきた


「蓮」


祖父に呼びかけられても
涙は止まってくれそうもなくて

泣き続けるだけだった








泣き疲れて寝てしまった私は
深夜になって目覚めた

ヨロヨロと立ち上がり
納得いかない決意を胸に祖父の部屋をノックした


「お入り」


起きていた祖父に促されて部屋へと入る


「大丈夫かな」


優しく問いかけてくれる祖父に頷いた


聞きたいことは沢山あるけれど


「おじいちゃん、明日お休みする」


「そうか、そんな日もあるな」


理由も聞かず柔らかな笑顔を見せてくれた


ズル休みと思った翌日
私は本当に熱を出して

三日間休むことになった

その間に。
祖父に頼んで大ちゃんの送迎を断り


東美へ進学したいと祖父を説得した


私から大ちゃんを解放してあげなきゃいけない


納得なんて死んでもできないだろうけれど
この決意は揺らがない



・・・ごめんね、大ちゃん





その日を境に


大ちゃんの家へ行くことはなくなった



もちろん

学校では徹底的に大ちゃんを避けた


いつも大ちゃんと二人で居たから
女の子の友達は一人もいない

そんなことが気にならないくらい
大ちゃん以外のことには興味もなかったから


小学校卒業まで一人ぽっちだった













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