蕾の恋〜その花の蜜に溺れる〜



私立東美女学院は山の手にある全寮制の中高一貫校


少数精鋭型の進学校ではなく
創立以来、淑女教育を理念の基にしている


食事のマナーから礼儀作法
淑女としての立ち居振る舞い
知識や教養、姿勢云々に加えて
茶道、華道、日本舞踊
それに伴う着付け等・・・

数え上げればキリがないほどのそれは

一見時代に逆行したような教育方針だけれど

入試倍率が三桁に及ぶ年もあるらしい

陰では[花嫁学校]とも呼ばれ
東美へ通った釣書だけで二次試験さえ突破したも同然だと言われる程

一学年二クラス
六学年でも五百名にも満たない女の園は

思ったより居心地が良い

それは


『淑女たるもの悪口陰口、自慢は無用
常に思いやりの心と笑顔、気配りを忘れないこと』

事あるごとに繰り出される理事長先生の口癖にも分かるように
徹底した英才教育によって其々が必死

イジメの芽になるものさえ東美《ここ》にはない

来月から最高学年の六年生になる今は

違う意味で生徒は騒ついている

何故なら・・・

六年生に進級すると
隔週で金曜日の午後から[外出]が認められるからだ


世間一般で春、夏、冬にある長期休暇

東美《ここ》でも同じように休暇はあるけれど
[外出]はその内一週間ずつしか認められていない

ほぼ軟禁状態の学生生活から
休暇以外に与えられる[外出]は
特に決まり事はなく好きに過ごして良いことになっている

勿論、校則の範囲内というのが大前提だけれど

先輩の中にはショッピングや映画
展覧会や画廊にカフェ巡り

これまでには許婚とデートした人も居たと噂に聞いたことがある

軟禁生活から少しずつ外の世界へと触れ
卒業までの一年間を過ごすという
魅惑の制度に

六年生を目前にした今

皆んな一様にタブレットを片手に
検索ばかりを繰り返している



それは

卒業後


系列の大学へと進級する者や
そのまま結婚が決まっている者

急に外へ放り出される前の予行演習に向けての期待の表れ以外にない
































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