蕾の恋〜その花の蜜に溺れる〜


駅前に人集りがないことを確認して肩の力が抜ける


また会ったらどうしようかと悩んでいたことが杞憂に終わった


北へ向かって広い歩道を歩く

その歩道は、校外学習なのか黄色い帽子を被った小学生で溢れていた


小学校三年生くらいだろうか
そんなことを思っていると


「あの・・・」


突然話しかけられて足が止まった


「ん?」


「お姉さん日本語分かりますか?」


やけに真剣なその瞳に
なんだかまた肩の力が抜ける


「フフフ、分かりますよ
だって日本人だもの」


可笑しくてクスクスと笑う


「え?そうなの?だってすっごい美人
色も真っ白だし、この制服可愛い
私、見たことないんだけど〜〜」


機関銃みたいに一気にお喋りになる女の子は

やはり小学校三年生で
街の風景とお店の数を数える校外学習らしい


「こら、アリサ!尋ねる時は先に名乗りなさいって先生から教わったよ?」


突然割り込んできたお友達に指摘されてポッと頬を染めた女の子


「あ〜、そうだった〜
私、鈴木アリサです、お姉さんは?」


「あ、私は山之内蓮です」


「レンって言うの?」


「うん、そうだよ」


「男の子の名前みたいだよね?」


「そうかな?お母さんが百合って花の名前でね。
私も同じ花の名前にしたかったって聞いたよ」


「へぇ、レンって花の名前なのね?」


「うん」


「アリサ、また話が変わってる〜
時間ないからちゃんと質問して」


隣に立つアリサちゃんより少しオマセな女の子は遠藤カナコちゃん


「じゃあレンちゃん、この街の好きな所をひとつお願いします」


・・・この街


・・・好きな所


六年も逃げていたこの街の好きな所
顔を上げて見渡しながら

またひとつ胸が苦しくなった


「ん、駅より北側がオシャレで落ち着いているところ、かな」


絞り出した声は低くて
その声にまた落ち込む


そんな私に


「私も〜、南側のモールも好きだけど
こっち側の方がオシャレだよね〜」


アリサちゃんは明るく同意してくれた


その笑顔を見て
ひとつ深呼吸すると


「じゃあ、アリサちゃんにカナコちゃん、お勉強頑張ってね」


スッと口角を上げて綺麗なお辞儀をする


そして・・・


またねと手を振った



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