蕾の恋〜その花の蜜に溺れる〜



あれから毎日片方の耳にワイヤレスイヤホンを入れたまま過ごす俺


病室に付けた機械から聞こえる蓮の声は

三時を過ぎるとワントーン上がる

それは蓮が庇った小学生がお見舞いに来てお喋りに夢中になるからで

その後は必ずお袋が蓮を散歩へと連れ出す

そこからはお袋の携帯とピアスが拾った会話を聞いている


・・・・・・相当だな


親父と自分の狂愛振りにため息をひとつ溢した


蓮の身体が落ち着いた頃に
二人きりで向き合いたいと思っていたのに

予告も無しにお袋が暴走した日

真っ暗な部屋で

“お庭に出ちゃいけない”あの日のことを
息を殺して聞いていた


「クソッ」


家業のことや婚約者にしたいこと
俺の口から説明したかったことを
先走ってお袋が話したことは百歩譲って許すが


お袋の兄貴だった奴のことだけは許せねぇ

拳を握りしめたところで
もう潰せないところにいるクソ野郎を思い出した


蓮は心配しなくても
お袋の兄貴は三年前に親父が一族根絶やしにした

ニノ組の利権に引き寄せられたダニみたいな奴で

色々しでかした結果だった


あの野郎・・・

忌々しい思いとは裏腹に


心の中は温い思いも宿っていて


それは・・・


俺のことを思って身を引いた蓮の想いを聞いたから


なぁ、蓮


看護師長さんの言う通り


言葉は使って初めて色を付けるんだ





これからゆっくり


それを教えてやる








side out





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