蕾の恋〜その花の蜜に溺れる〜
再会




「淑女たるもの悪口陰口、自慢は無用
常に思いやりの心と笑顔、気配りを忘れないこと
何時如何なる時も、何処に居ようとも東美であることを頭に留め置き
粗相の無いよう励みなさい」


六年生へ進級後、初めての金曜日
四時間目は注意事項だけが延々と続いている
ホールに響く理事長の声は
いつもより低くて

シンと静まる生徒は
背筋を正して聞き入っている


「それでは夕刻まで、ごきげんよう」


「「「「ごきげんよう」」」」



一瞬の喧騒、そして静寂


担任の先生の誘導に合わせるように
綺麗な列が動き出した


誰一人として口を開かないその光景は
見たこともないけれど
軍隊の行進のようで

ただ・・・

可愛らしい制服に
真っ白に濃紺のリボンの付いた帽子を被った女子生徒という見た目だけで

異様な雰囲気だ


クラスと同じ番号のバスに乗り込むと
静かに出発した


「蓮は駅から歩き?」


「うん、歩いても一キロほどなの」


「そっか、私はお迎え」


隣に座る香衣は不安なのか
知っていることを何度も質問してくる


もちろん『前に言った』なんて
冷たい言葉は絶対使わない

その度に笑顔で答える


けれど・・・もう少しで到着してしまう

唯一の友達の緊張を少しでも解してあげたくて

ハンカチを握りしめた小さな手を包むように自分の手を重ねた


「香衣、大丈夫、私も同じ
だから、また十八時に会おうね」


間近の香衣の瞳を見ながら
ゆっくり声を掛ける


不安そうに揺れていた瞳が
瞬きに二度隠れて


「ありがとう蓮」


フワリと笑ったことで細くなった



暫くして到着した中心駅の裏口広場には

大勢の迎えが待ち受けていて
それまで静かだったバスの中が少し騒つき始める


バスから降車し一度整列した後は
其々が有る場所へと収まって行く


香衣のお迎えに少し付き添って
ご両親へ挨拶を済ませると
人集りの中から抜け出した





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