蕾の恋〜その花の蜜に溺れる〜


家族の迎え以外の僅かな生徒の波に紛れながら
駅の建物内へと足を進める


西の街から東西を貫くように伸びた線路はこの中心駅が終点

裏口広場の周りには高層ビルが建ち並ぶオフィス街になっている

中心駅は大きな駅ビルになっていて

景観の為に高さは制限されているけれど

デパートやホテル、シネマにレストラン街と人で溢れている

駅へと続く一階は特にお土産物を扱う店で大賑わいだ


それを横目に見ながら
一角にあるフラワーショップの前で足を止めた


大きなショーケースの中にある
白い百合が目に付いたからだ

母の名前は「百合」
家族のアルバムには

いくつか百合の花が写り込んでいるのに見覚えがある


命日でもないけれど
初めての外出の記念にと

未だ蕾のそれを迷わず購入して
綺麗にラッピングされたのを胸に抱えた


ゆっくり人波に流されるように
駅の正面口へと足を進める


ヒカリに溢れるそこへ出ようとしたのに

溢れるほどの人集りが正面口を塞ぐようにあって

立ち止まってしまった


・・・・・・なんだろう?


はしたないとは思ったけれど
人集りの原因を確かめたくて背伸びをした


けれど

あまりに人が多すぎて
よく分からなかった

でも・・・

女の子達の悲鳴にも似た声が上がっているから

もしかしたら芸能人でも居るのかも?

なんだか出鼻を挫かれたようで
折れそうになる気持ちを百合の蕾が後押しする


「・・・よしっ」


端に僅かに見える隙間から抜けようと
一番端まで移動して

人集りの動きに合わせてすり抜けようとした刹那


何かを取り囲んでいた人集りが崩れた



「キャーーーーーーー」



ドドドと足音が不規則に聞こえると同時に
人集りに押されて身体がグラついた
強い力に押されて倒れていく自分の身体を立て直す暇もないまま

端にある大きな柱へ頭を打ち付けてしまい意識が遠くなる


その拍子に両手に抱えていた百合が滑った


「・・・っ」


間に合って・・・
急いで手を伸ばしたけれど

そう思うより先に
それは人の足の下に消えてしまった






「・・・や、めて、踏ま、ないで」







その映像を最後に意識を手放した

















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