私が聖女?いいえ、悪役令嬢です!~生存ルート目指したらなぜか聖女になってしまいそうな件~
2 一人目の攻略対象者
 イリスは絶句した。

 よりによってあのイリスだなんてっ!

 悪役令嬢イリス・ド・シュバリィーは、フロレゾン王国の勇敢な騎士の家系、シュバリィー侯爵家の娘である。『ハナコロ』唯一の悪役令嬢だ。聖なる乙女の候補者の一人で、ヒロインのライバルである。

 バッドエンドでは、ヒロインの聖なる乙女カミーユを刺殺する役割だ。イリスがカミーユを刺殺することで、神の怒りを買い、フロレゾン王国は闇に包まれるのだ。イリスはその責任を取るために、生命力を聖なる力に変換する魔導具の発動元として、生きたまま魔導具の中に閉じ込められ、生命力を捧げ続けることになる。彼女が死ねばその子孫が後を継ぎ、未来永劫にシュバリィー家はその責務を負う。

 イリスは頭を抱え込んだ。何しろバッドエンドに進んだ場合、ヒロインをどのルートでも刺し殺すのは誰でもないイリスだ。前世ではゲームの中で、何度も何度もイリスに刺殺された。

 作画コストの関係か、女性の登場人物の少ないこの作品では、イリスにすべての悪役要素を詰め込ませていたのだ。おかげでイリスは、どちらに転んでも破滅しか残されていない。メリバかバッドしか残されていないヒロインと同じくらいに、イリスにも幸せな未来はないのだ。

 そもそもなんでそんなに人を簡単に刺すのよ? 令嬢の癖に短剣持ち歩くとか物騒なことこの上ないわ! いや、我が家は騎士の家系で、淑女(レディ)(たしな)みとして訓練も受けている!

 イリスは気が付いて、呆然とした。素養は十分すぎるほどある。短剣で人を刺し殺す方法は何度も訓練していたのだ。

 なんてこと!! しかも刺し殺せる自信もある! 年端も行かない娘になんてこと仕込んでるのよ! お父様のバカー!!
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