ドキドキするだけの恋なんて
5

少し歩いて タケルが 立ち止ったお店は

あの頃は 来たことがない 大人っぽい 装いで。


恋人達が 静かに 向かい合うための

おしゃれで 落ち着いた 雰囲気だった。


「へぇ…タケル 洒落たお店 知ってるじゃない。」


あの頃は 居酒屋か ファミレスばかりだったのに。


何となく 気恥ずかしくて 私が言うと


「まぁね。俺も 大人になったから。」


タケルは あの頃と同じ 少し照れた笑顔で 答えた。


案内された席は ゆったりと広くて。

タケルは メニューを 開きながら


「俺が オーダーしてもいい?」

あの頃とは 違う 大人っぽい顔で 私を見る。


「うん。任せる。」


もし 私の 苦手な 鴨料理を オーダーしたら

テーブルを ひっくり返して 帰ってやる…


でも タケルは 私の好みを 忘れていなかった。


注がれた ワインは 甘口で。


「美味しい…」


小さく グラスを掲げた後で 

一口 飲むと 私は 言ってしまう。


「だろ?あず美 甘いワイン 好きだったろう?」

「そんなこと… 今は 辛口も 飲めるから…」


私の 小さな抵抗に タケルは 余裕の笑顔を 向ける。






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