ドキドキするだけの恋なんて
10

10月に入って まもなく。

宇佐美さんに 食事に誘われて。


「久しぶりですよねぇ。」

「星野さん 忙しそうだからね?」

「えっ。宇佐美さんだって。その後 どうですか?」


宇佐美さんと一緒に 会社を出て。

駅に向かって 歩き出した。


「あず美…」


突然 私達の前に タケルが 現れた。


「タケル…」

「野本さん…?」


私と宇佐美さんは 立ち止まる。


『どうしよう…』

『どうする?』


無言で 顔を 見合わせて。

途方に暮れる私達。


「あず美 話したいんだ。」


タケルは 宇佐美さんに 軽く礼をして 私に言う。


「話すことなんか ないでしょう?」


私は タケルから 顔を背ける。


「これから 宇佐美さんと 食事するから。」


「すみません。あず美のこと 貸してもらえませんか?」

タケルは 宇佐美さんを見る。


宇佐美さんは 困った顔で 私を見て


「星野さん どうする?」

「私 宇佐美さんと 食事するから。」


同じ言葉を 繰り返す私…


「少しでいいんだ。頼むよ あず美。」


「星野さん 話してきたら?ちゃんと…最後に。」


宇佐美さんは やれやれと言う顔で。


私は もう タケルと話すことなんて ないのに。


でも ちゃんと 話さないと いけないのかな。

宇佐美さんが 言うように


最後に…



「わかった。宇佐美さん すみません。」


「食事は また後でね。」


宇佐美さんは タケルに 軽く頭を下げて。


私とタケルを 残して 歩いていった。







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