あなたの左手、 私の右手。
第1章 ~満員電車~
「おばあちゃん、じゃあ行ってくるね!」
「いってらっしゃい、気を付けるんだよ」
「うん。おばあちゃんも気を付けてね」
「はいはい」
私、赤名美羽(あかなみわ)24歳。
わけあって大学を卒業してから2年後の今日、社会人としての一年目の生活をスタートさせることになった。

「美羽、ちゃんとお父さんとお母さんに」
「ちゃんとお線香あげたよ」
「そうかい。いってらっしゃい」
私がばたばたと支度を済ませて玄関で降ろしたてのパンプスに足を入れていると、奥の部屋からおばあちゃんがゆっくりと歩いてきた。

「大丈夫、玄関までわざわざでなくても。」
おばあちゃんは昔から足が悪い。
出産をしたときに足を悪くしたと聞いている。

「ちゃんと見送らせておくれよ。孫の初出勤なんだから。」
しわしわの顔に笑顔を浮かべながら私の方へ近付くおばあちゃん。
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