翠玉の監察医 癒えない時間
三 涙と罪
蘭は、世界法医学研究所の最年少監察医として医大を卒業してすぐに活躍し始めた。最年少の天才監察医に多くのメディアが注目をしたが、蘭はいつも遺体と向き合うことだけに集中していた。

「蘭、お疲れ様〜」

解剖が終わった蘭にアーシャが話しかけてくる。その手にはコーヒーの入ったマグカップが二つあった。

「ありがとうございます、アーシャ」

蘭はコーヒーを受け取り、飲み始める。その様子をアーシャは優しい目で見つめていた。その時、「俺らも一緒にいていい?」とヘンリとミンホが話しかけてくる。同じ世界法医学研究所に偶然にもみんな就職したのだ。

「いいわよ」

アーシャがそう返すと、ヘンリとミンホは蘭とアーシャの隣に座る。そして同じようにコーヒーを飲み始めた。

「それにしても、今日のご遺体は酷かったわね〜。犯罪組織絡みのご遺体なんでしょ?私たち、犯人から恨みを買ったりしないかしら」

そう言うアーシャに「忘れたいのに思い出させるなよ〜」とミンホが言う。ヘンリが笑い、蘭は黙って三人の話を聞いていた。

世界法医学研究所には、様々な国の人が監察医として働いている。この広い職場話には様々な言葉や文化が交わることも珍しくない。様々な国の人たちが手を取り合って遺体の声を聞き、事件を解決していくのだ。

「そんな暗い話じゃなくてもっと明るい話をしようよ。例えば恋愛とか!俺らの周りでももう早い人は結婚してるだろ?」

ヘンリがそう言い、蘭はアーシャたちとの歳の差を思い出す。蘭はまだ十六歳だが、アーシャたちはもう二十四歳だ。結婚適齢期だろう。

「でもまだ働き初めて半年くらいだし、まだ結婚とか早いだろ。そもそも彼女いないし」

ミンホがそう言い、ヘンリも「そうだよなぁ〜」と肩を落とす。アーシャはニヤニヤ笑いながらネックレスに触れた。
< 32 / 46 >

この作品をシェア

pagetop