ーーーまさか、こんなことになるなんて。



夢に夢を見ていた三年前の私には、想像もつかなかった。



「……さようなら。私の城」



三年前に新卒で五年勤めていたスイーツ店を辞め、決して多いとは言えない貯金を叩いて開業した、自分のお店。


チーズケーキが大好きで、材料から作り方、盛り付けまで自分の納得のいくまで拘って作った。


それを看板商品として売り出し、他にも数種類のケーキを用意していざオープン。


最初は客足も順調だったものの、駅と駅の間という少し不便な立地のせいか次第にお客様の数は遠のいてしまい、減少傾向に。


たまに一人で沢山買って行ってくれたお客様もいたものの、それだけではお店は続かなかった。



「……三年。厳密に言えば二年半……短かったなあ」



昨日まで自分のお店だったその建物からは、お店の看板が外されてショーケースも取り払われた。


既に買い手がついているようで、すぐに次のテナントのための工事が入るだろう。


まさか昨日までここがケーキ屋さんだったなんて、誰が思うだろうか。


寂れた外観だけが、そこに残っていた。


短い期間だったけれど。だからこそ、沢山のことを学べたこともあるし、何よりしんどかったけどとても楽しくて充実した二年半だったと思う。


自分のお店を持てたという事実は、私にとっては一生の宝になるだろう。


滲んだ涙が、ゆっくりと目尻から零れ落ちて頬を伝う。



「……ありがとう」



ずっと使ってきたコックコートとスカーフをギュッと握りしめる。


頭を深々と下げてから、その場を立ち去った。