崖っぷち令嬢が男装したら、騎士団長に溺愛されました
16.宮廷舞踏会
 アイリスは自分の姿を覗き込む。
 まぶたに幾重にも乗ったアイシャドウ、しっかりと上がった睫毛、ぷるんとピンク色に艶めく唇。
 自分なのに自分ではない気がしてしまい、どうにも慣れない。

「姉さん、行こうよ」
「わかっているわ。変じゃないかしら?」
「変じゃないって、さっき言っただろう」

 黒いフロックコート姿でこちらを見つめるディーンが呆れたように肩を竦める。

「だって、こんな格好したのは初めてなのだもの」
「姉さんは去年も参加しているだろう?」
「去年のドレスより、ずっと豪華なの!」

 アイリスは少しふてくされたように頬を膨らませると、もう一度鏡を覗く。ディーンが参ったと言いたげに息を吐くのが、鏡の端に移った。

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