【改訂版】CEOは溺愛妻を杜に隠してる
「一生面倒を見ていく庭を造りたいと考えています」
 
 隠岐さんに、一生をかけて育てていきたい庭を作ることが夢だと話した。

「……ひかるが手塩にかけている多賀見家の庭も見せていただかないとな」

 隠岐さんは私に微笑みかけてきた。
 どきん。
 優しい表情に私の心臓は帯の下でトクトクいってる。

「ひかるの考えは、素晴らしい。隠岐の杜を貴女の手で生み出し、面倒をみてやってほしい」

 プロジェクトの環境保全、お祖母様への想い。
 互いに、二人が求めるものは同じところにあると感じている。
 私はすうと息を吸いこんだ。

「未熟ですが、参加させて頂きたいです。いえ、私にやらせてください」

「ありがとう」

 隠岐さんはほっとしたように笑みを浮かべた。
 ……それにしても。
 私と隠岐さんは、あいかわらず二人並んで座っている。

 隠岐さんが体を斜めにして、私の双眸を覗きこんできた。 
 先ほどの激情はなりを潜め、かわりに甘く熱い視線が私にあてられている。

 肌を焼く熱が、じわじわと体の奥へと浸透していく。
 今にも体の芯が発火しそう。
 いたたまれない。

 じりじりと追い詰められていく予感に、心臓がドキドキとうるさい。
 完全に捕まってしまう前に、逃げ出したくてたまらない。

「ひかる?」
「ひゃい」

 噛んだ。

「俺としては、どうしようもないダメ男でゲスでクズなゴミのことをもっと詳細に微に入り細を穿って聞きたいんだが」

 すまない、ひかるとしては忘れさりたいだろうに。
 しかし君に惚れている男としては、恋人を愚弄された『お礼』はしてしかるべきだろう?

 甘さの中に、静電気パチパチし火柱も立っている表面温度何千度みたいなどろっどろのマグマをぶち込んでくるこの人はすごいなあ。 

 ……惚れてるとか不穏な言葉もあったけど。
 私としては夢の島(東京都におけるゴミの最終処理場)にポイ済みのクズなんて、遠くで幸せでいてくれればどうでもいいよ案件。
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