氷の貴公子は愛しい彼女を甘く囲い込む
「――十二建設の件はどうなっている?」

「相変わらず足げく三笠に通っているらしいです。三笠側も支援する意味はあまり無いと分析しているようですが、いくつか公共工事を請け負っている関係で簡単には切り捨てられないのでは?」

 城山の返答にそうか、と答えながら長い脚を組みなおす。
 
「僕は潰してしまっても構わないんだが」

 赤井から彼女を引き離した後、夕食に誘った。
 その時彼女があの男からされた仕打ちを聞いて、初めて心から人を殴ってやりたい気持ちになった。
 
 彼女の優しさに付け込み弄んだ挙句、裏切り、会社を辞めるまで追い込むなんて、その時の彼女を気持ちを考えると心が痛む。
 それを今更、よりを戻そうとするなんて。
 そんなこと、させるわけがないだろう。
  
 でも
 
「――優しさに付け込んでいるのは僕も同じか」

 海斗は自嘲気味に呟く。
 
 状況的に赤井が綾に再び接触する可能性は低いと思っている。
 しかし海斗は綾の不安を最大限に利用して、偽恋人を演じるという状況に持ち込んだ。
 
 彼女はこちらに迷惑を掛けまいと頑張っているようだが、海斗の手八丁口八丁に流されてしまう。
 
 昼休みの事や、秘書の存在、よく考えれば矛盾や不自然な事ばかり。疑問が浮かんでも海斗が『そういうものだよ』と言えば素直で人が良い彼女は信じてしまう。

 だから付け込まれるんだ。可愛そうに。
 
 偽の恋人の為にあそこまで出来るわけ無いだろう?
 
 彼女といるとつい色々食べさせたり、買ってあげたくなってしまう。喜ぶ顔が見たい。
 そんな思いを今まで他の女性に抱いた事は無かった。

 水族館デートは本当に楽しくて、というか水族館を楽しむ彼女を見ているのが堪らなく楽しかった。
 ヒルズにいる時とは違う開放感もあった。
 彼女に密着して心のままに甘く囁くと、いちいち真っ赤になって狼狽える様子も可愛くて、さらに離れがたくなってしまった。
 
 帰したくないと思いつつ、紳士の顔で家まで送り届けたつもりだったのに、別れ際渡されたキーホルダーと、嬉しい言葉。
 
 あまりの愛おしさに、自分の気持ちが抑えられなくなり、彼女にキスをした。
 彼女の唇は柔らかく温もりがあった……まるで彼女自身みたいに。
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