氷の貴公子は愛しい彼女を甘く囲い込む
 好きだとはっきり自覚したけれど、告白する事は無いだろう。
 どう考えてもつり合いが取れていないし、彼が自分に振り向いてくれるとは思えない。
 
 2年間に『君にはメリットが無い』と赤井に言われ深く傷ついたのは、核心を突かれたからショックだったのだ。
 
 平凡過ぎる自分は彼にとってメリットのある人間ではないのは事実だ。

 それ以来、彼に甘い雰囲気を出される度『さすがオスカー俳優』とタキシードに蝶ネクタイ姿でオスカー像を片手に壇上でスピーチする海斗を想像してやり過ごすようにした。
 タキシードの彼は想像上でもかなりかっこいい。

 キスの後、初めて顔を合わせた時にはどう接して良いか内心緊張したが、そこはこちらも女優の気持ちになって、何も気にしない風に取り繕った。上手く誤魔化せたと思う。
 海斗も何も触れずに流してくれたのでありがたかった。
 さすがに演技過剰と思ったのか、その後彼が綾にキスしてくることは無い。
 
「なーに、ぼうっとして。彼氏の事でも考えてたの?」

 ディスプレイする手がつい止まってしまっていると、背後からるりに声を掛けられる。

「彼氏じゃありませんって」

 るりには転職する時に赤井の事を話していた事もあり、海斗に偽恋人をしてもらっている事も大まかに話してある。

 以前店に訪れた男が綾を傷つけた元カレだと知ったるりは、一発殴っておけば良かったと殺意の籠った目で呟いていた。
 今度店に来たらマジで殴ってやるって言っていたが、ガラス商品しか置いて無い店内では絶対にやめて欲しい。
 一方、海斗の話をしたら、何そのドラマみたいな話、と食いついて来たのだ。
 
「でも、もの凄いイケメンとデートしてるってこの界隈でも噂になってるわよ」

「そう、みたいですね、この前例の呉服屋の大旦那さんにも『息子との見合い、本気だったのにあんな彼氏が居たら諦めるしかないな』って言ってましたよ、社交辞令でしょうけど」

「それ、明らかに牽制されたんじゃ……」

 独り言のようにるりが漏らした声は綾の耳には届かず、綾は思いを巡らす。

 平凡な容姿の綾と一緒にいて海斗はいいのだろうか。
 
 たまに彼の部下と思われる人と出会う事があるのだが、皆一様に海斗を見て『信じられない』という顔をする。
 不思議に思って彼に聞くと『僕が仕事の時の雰囲気と少し違うからかな』と言っていたがどうだろう。
 釣り合いが取れない女と一緒にいるせいでは、と、ついネガティブに考えてしまう事がある。
 
 ただ、ここの所海斗と会う機会が減っている。
 海斗のパートナーとして出席するベリーヒルズ開業5周年記念したパーティが来週末となっているため、準備の関係で彼は忙しいようだ。
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