氷の貴公子は愛しい彼女を甘く囲い込む
 こうしてふたりで夕食を食べるのも最後になるかもしれないな……。
 
 綾は切ない気持ちを抱えながらも、まずは目の前の食事を楽しもうと切り替えた。
 今日もクルミの入ったパスタは美味しかった。
 
 食事が終わるころには心地良いアルコールの感覚を覚えていた。
 デザートも終わろうというタイミングでほろ酔いの勢いを味方に、綾は思い切って切り出した。
 
「海斗さん」

「うん?」

「今日はとても楽しかったです。ありがとうございました」

「ああ、僕も楽しかったよ。ありがとう」

 海斗はいつものようにゆったり笑う。本当に恋人にするかのように。

「ドレスも素敵でしたし、パーティも何だか楽しみになってきました……それで」

「本当に楽しみだね」

 海斗はそれで?と後を促す。綾は心をギシギシと軋ませながら絞り出すように伝える。

「――あの、パーティが終わったら今の偽恋人は終わりにしませんか?もう元カレの方は大丈夫っぽいですし。というか、元々海斗さんもそのつもりだったかも知れませんが……」

「……」

 目の前の彼は急に押し黙ってしまった。
 
 一瞬の沈黙がやけに長く感じて彼の名を呼んでしまう。
 
 「海斗さん?」
 
「……そうだね、僕もそのつもりだった」

「やっぱり、そうでしたか……」
 
 自分で言っておきながら、切ない気持ちが湧き起こり無意識にテーブルの上に置いていた手をギュッと握ってしまう。
 
「でも、君の思っている方向性とは全く別」

「……?」

 彼は身を乗り出しゆっくり両手を伸ばすと、綾が強く握ってしまっていた右手をふんわりと包む。
 
「え……?」

「綾、偽はやめて、僕と本当の恋人に、パートナーになってくれないか?」
 
 驚き見開く綾の顔が彼の瞳に映っている。
 
「パーティが終わっても、君とずっとパートナーでいたい」

「……」

 酔ってる訳ではないのに幻覚を見ているのだろうか。さもなくば
 
「これって、演技……」

「そんな訳ない。もしかして、今までずっとそう思われてた?」

 苦笑した海斗だが、すぐに表情を戻す。思考停止状態の綾に焦れたのか、綾の手を握る力を強くする。

「綾、僕は真剣に言ってる……答えは?」
 
 確かに冗談をいっているような雰囲気では無いし、押さえた声色が逆に『Yesと言って』という逃げられないような圧を醸し出している。

(海斗さんが、恋人になりたいと思ってくれている……?)
 
 こんなに素敵な男性が自分と?と、信じられない気持ちと共に、押さえようとしていた恋心があふれ出してくる。また流されてしまいそうだ。
 
 いや、もういっそ流されてしまっていいのかもしれない。彼がそう言ってくれるのなら。
 
「……嬉しいです。よろしくお願いします」
 
 頬を赤らめながら綾は言った。

 
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