氷の貴公子は愛しい彼女を甘く囲い込む
 三笠家には社長の息子である光孝という長男がいる。彼がいわゆる『御曹司』だ。
 
 海斗の従兄弟にあたる事になるが、光孝はまだ20代。海斗がその気になれば、三笠財閥の後継者となってもおかしくないとまことしやかに囁かれているそうだ。
 
 赤井の話では経営悪化していた十二建設は結局三笠建設に吸収合併される事になったらしい。
 彼は三笠建設の管理職となり経営に携わる事となる。その中で海斗に関わる内部事情を知る機会を得て、海斗が綾と交際している相手だと思い至ったのだ。
 
『会長は孫の間宮をかなり見込んでいるらしい。会長が認める相手じゃないと結婚なんて出来ないはずだ。お前は騙されたんだよ』

 それとも分かってて旨い汁でも吸おうと思ってたのか?
 
 酷い言葉を投げられたが、もう、綾は気にもならなくなっていた。
 
 さらに『愛人になるより、俺の嫁に来た方が良いんじゃないか?』と迫ってくる赤井を振り切り一人地下鉄に乗り、何とか自宅までたどり着いた。
 
 ベッドに突っ伏しながら考える。
 
 赤井の話はあくまで噂だ。あの男の言う事を信じて良いかも分からない。
 そう思いながらも、綾は答えを見つけてしまった気がした。
 
 海斗は三笠家の人間。それを隠したまま、綾の偽恋人をして、そのまま愛人にしようとしていた。
 あくまで結婚するのはメリットのある女性――

 これまでの海斗の立ち居振る舞いや、芝居がかったと思われるほどの大げさな愛情表現は遊びみたいなものだったのだろう。
 上流階級の戯れ的なもの、とでも思えば良いのだろうか。
 
 電話で話していた言葉が本音なのだろう。

 結局、自分は2年前と同じことを繰り返しただけ。
 始めての恋も浮かれて相手の本質が見えず、裏切られ、傷ついた。
 
 そして今も、夢みたいな恋に盛大に浮かれて、流されて、盛大に
 
(裏切られた……のかな……)

 体が重く、うつぶせのまま指一本動かすことが出来ない
 
 赤井と別れた時はあれほど泣いたのに、今回は涙も出ない。
 泣いたら楽になれそうなのに、それすらも出来ない。
 
 寝てしまおうと思っても、目を瞑ると海斗の悲しそうな顔が浮かんでしまい、どうしたら良いか分からなかった。
 
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