俺は結衣を腕に囲いながら、昔を少し思い出す。

『光輝君はいつもお利口ね』
昔からうんざりするほど聞いていた言葉だ。
いつでも完璧を求められ、それが当たり前だと思っていた。
絶対的な支配力を持つ父親、それに従順な母親。
そんな両親を持った俺は、いつしか自分を出すことが不必要な気がしていった。

親からすれば育てやすく、問題のない子どもだったと思う。

その優等生の仮面は冷徹で感情の無い人間へと変わって行ったのは、いつのころからだっただろうか?

大企業の二代目として、TAグループを継ぐため長男として当たり前のことだと思って生きてきて、それを別に異常とも思った事もなければ、嫌だと思った事もなかった。

それなりにどんなことも器用にこなせたし、苦労という苦労もしてこなかったが、何かが欲しいとか、楽しいとかそんな感情は欠如していたかもしれない。

副社長に就任した時も、親の七光りだの、若すぎるだの色々言われた上に内部が少し緩みがちで絶対的な支配が必要に感じた。
昔から優等生の仮面をかぶっていた俺でも、冷徹非情な人間になるのは、心をすり減らすところもあったが、なんとか自分を保ってやっていた。