あやかしあやなし
第三章
「あらあら」

 都にある市の中で、小丸は立ち尽くしていた。いつも作ったものを卸している店がない。

「今日は休業……てわけじゃないみたいねぇ」

 小丸はきょろきょろと辺りを窺った。京の都は千年魔都というだけあり、物の怪が多い。少し力のあるものが見れば、そこここに物の怪が歩いていたり飛んでいたりするものだ。
 が、今は全く妙な気配がない。

ーーー物の怪狩りってのは、ほんとみたいだねーーー

 こそりと思い、小丸は踵を返した。卸業者がいないのは痛いが、店がないのが物の怪狩りのせいなのであれば仕方ない。
 この店は物の怪がやっていたのだ。長く人と共存しているので、周りの者もまさかこの店の主が物の怪だとは思っていないだろうが。

「ああ、これから振売りでもしないといけないのかしら」

 大きな風呂敷包みを背負い直して肩を落とす。物の怪同士、事情がわかっているからそれなりの口も利いてくれた。単なる人の店に頼み込んでも買い叩かれるのがオチだ。
 竹籠も組み紐も、丁寧に作ってはいるが、飛び抜けた何かがあるわけでもない。術を使ってそれなりに見せることは訳ないが、信用問題になるのでやりたくない。都で売るのがこれっきりならともかく、今後もお世話になるのだ。悪い噂は立たないに越したことはない。

 この大荷物を持って帰らないといけないのは嫌だなぁと思いつつ、小丸はとぼとぼと一条のほうへと歩いていった。

「さてさて」

 立派な門の前で、小丸は少し首を傾げた。普通に入って行っていいものか。
 陰陽師というのは、本来身分は高くない。殿上人ではないのだ。
 が、安倍家に限ってはそうではない。陰陽寮の長を務める家柄なのだから、実際の官位を越えての立場がある。
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