女神の加護? いいえ、ケフィアです。

お付き合いとか彼氏とか

 揉めた原因は、双子の妹である(あい)に彼氏を奪われたからだ。
 ……いや、まあ、彼氏と言っても中学の卒業式の日に告白された後、ほとんど会えていなかったのだが。

「ちょっと、付き合ってほしい」
「どこへですか?」
「……いや、そうじゃなくて、彼氏彼女って意味で」

 卒業式の日。愛は両親と共に買い物と食事に出かけたので、一人で家へと向かっていた。そんな唯を呼び止めた学生服姿の少年――澤木(さわき)は、赤くなりながら告白してきた。

(『ちょっと』って言うから、どこか行くのかと思った)

 学校の図書室で読んだ、漫画のようだと思った。しかし、漫画とは違って頷く訳にはいかなかった。漫画のようなイケメンとまでは言わないが、地味な唯と違って眼鏡をしていても背が高くて格好良い。しかし、好き嫌い以前の問題があるのだ。

「あの……でも、卒業後は進学せずに家で家事手伝いになるので、彼女になるのは無理です」
「え?」
「あ、ガラケーでネット契約もしていないので、トークアプリとかのやり取りも出来ません」

 三年間同じクラスだったので、顔と苗字くらいは知っていた。いや、他の男子生徒とは違い、愛をチヤホヤするのに地味な唯を貶めることがなかったので、恋愛云々はともかく悪い印象はない。
 けれど、だからこそ彼女らしいやり取りの出来ない自分では、申し訳なさすぎる。そう思い、はっきりキッパリ答えると――何故だか、温かい眼差しと笑みを向けられた。

「だったら、ショートメールは出来るだろ? 返事は気にしなくていいから、たまにメール送っていい?」
「でも……」
「あと、夕飯の買い物でスーパーとか来るよな。毎日じゃなくても、そういうところで」
「……はい」
「あ、ストーカーとかじゃないぞ!? 学校帰りに、見かけたことあるからっ……何て言うか、進学しないなら尚更、このまま支倉と別れたくない」
「あの……友達じゃ、駄目ですか?」
「俺が好きだから、駄目」

 先程までは照れていたが、唯が断ろうとしても食い下がってくる。
 ……結局、澤木に根負けした唯は「すぐに自然消滅するだろう」と思いつつも頷いて、電話番号のやり取りをした。



 唯が中学校を卒業してから、二か月ほど経った。
 澤木からは、今も朝昼晩とショートメールが来る。返事は気にしなくて良いと言われたが、唯も短いながらも返信していた。
 そして今日は、唯の誕生日だからスーパーに行くまでの途中にある歩道橋で会おうと言われている。
 だがエコバックを手に、階段を上がっていくと――妹の愛とキスしていた澤木が、唯を見て眼鏡の奥の目を大きく見開いていた。
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