惚れたら最後。

望月大希

いつからそこにいたのか。

気配なく詐欺師の男に近づき、その手を引き剥がしたのは、喋り方に特徴のある背の高い男。

男はニコニコと胡散臭い笑みを浮かべて、私の顔を見下ろした。



「いやぁ、べっぴんやな。
前歯が折れた間抜け面でもかわいいやん」



らんらんとした目に鷲鼻が特徴的なその男。

背が高く、50手前の歳の割にはスタイリッシュな体型をしている。

この男は“日本二大勢力”の暴力団、西雲会会長・望月大希。

西日本の裏社会をまとめる極道のトップだ。



「会長さん、どうしてこちらに?」



ここに来ること手予定ではなかったらしく、遠くから観察していた池谷が驚いて近づいてきた。



「荒瀬組の若頭を落とした女がどんなもんか見に来てん。
なんやエラい美人やん、壱華とタイプちゃうけどこれまたレベル高い女やなぁ」

「はい、いい値で売れるはずです」

「ほぉ……」



何を考えているかさっぱり分からない。

ここまで心理が見えない男は生まれて初めてだった。

それにひと目見て“本物”だと分かるほどの威圧感なのに、なぜか話しかけやすい雰囲気なのが気味が悪い。

冷や汗が額を伝う。

この男と手を組んだのは間違いだったかもしれないと。

私はここで初めて死を意識した。
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