身代わり依頼は死人 桜門へ ~死人の終わらない恋~
2話「冬の桜並木」





   2話「冬の桜並木」



 文月が目を覚ました頃には、家には誰もいなかった。それもそのはず、目を覚ましたのはお昼過ぎという時間だった。冷たい空気の部屋から上着を取りだし、文月はパジャマ姿のまま1階に降りる。
 すると、リビングには昨日文月が渡した茶封筒がテーブルの上に置かれていた。そして、底には「帰るときは戸締まりをしっかり!」と、殴り書きで書かれた母親からのメッセージ。文月はハーッとため息をついて、すぐに部屋へ戻った。

 遅めの朝食は昨日のうちにコンビニで買ってきたパンとコーヒー牛乳だ。文月はそれを部屋に一気に食べた後、また1階へと向かった。
 家の一番北にある奥部屋と呼ばれていた場所。その小さな部屋で祖母は暮らしていた。日の当たらない寂しい場所のはずなのに、文月にとってはとても温かく、この家で1番明るい部屋に感じられた。それは今でも変わらない。

 小さな窓からは薄い光と裏庭が見える。小さなテレビと真ん中には炬燵。沢山の植木鉢が置いてあるが、今はほとんどが枯れている。その棚には祖父や祖母の結婚式の写真が飾られていた。1番新しいのは、文月の写真だ。庭で祖母と遊び微笑んでいるものだ。
 部屋にあるものを1つ1つ大切にしていた祖母。
 この場所は両親に何度も怒鳴られても「残しておいてほしい」と文月が懇願した場所だった。文月の部屋同様に、掃除も換気もされていない。けれど、文月にとっては大切な部屋だった。


 「おばあちゃん。ごめんね……。少しだけ探させてね」


 写真の若い頃の祖母にそう話しかけると、文月はある物を探し始めた。昨夜に盗み聞いた「手紙」だ。どんなものかわからないが、母が言うには残っているはずなのだ。



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