生まれ変わっても義弟は許してくれない。
義姉を失った義弟。

前世の話。








突然だが、前世の話を少しさせて欲しい。


前世の僕には2歳年上の義姉がいた。
莫大な資産を持つ名家の一人娘、それが義姉。そしてその家を継がせる為に義姉の父が連れて来た子どもが僕だった。

僕は義姉が大嫌いで大嫌いで仕方なかった。僕たちが出会ったのは僕が6歳、義姉が8歳の頃だった。

何故、僕がそこまで義姉を嫌っていたか。単純である。何もかも持っていた義姉という存在が憎かった。
美しく、明るく、優しい義姉。そう育つように整えられた恵まれた環境。悪意に晒されることなく、大事に守られてきた義姉はこの世に存在する何よりも尊く、女神のような慈悲に溢れる人だった。

対する僕はここへ引き取られるまでは完全に実力主義な孤児院で育った。美貌、勉学、体術など生きる為に必要な力を物心ついた頃から叩き込まれ、競わされ、ただ1番を目指す。その順位によって与えられる生活の質が変わり、順位が低ければ低いほど人間らしい生活を送らせてもらえなかった。
だからみんな人間になりたくて必死で自分を磨き、時には自分のライバルを陥れた。
そうして育った質のいい子どもたちを金持ちに売りつけるのが孤児院のやり方だった。

僕が必死で手に入れてきたものを義姉は最初から持っていて、それどころか周りに与えようとする。
その義姉の存在が僕の存在を嘲笑っているようで義姉にその気がなくてもそれが嫌で嫌で仕方なかった。

だが、僕は幼かったがそれを表に出すことはしなかった。それをすればこの家では終わりだと幼いながら孤児院での教育のおかげもありしっかり理解していたからだ。


「ねぇ、優。私は優が大好きよ。誰よりも愛しているわ。だから私のこれからの時間優に全部あげるよ」


ある日。出会って数週間の僕に義姉は女神のように慈悲深い笑みを浮かべてそう言った。
義姉はわかっていたのかもしれない。僕が義姉を嫌っていることを。だからこんなことを言ったのだろう。


「本当に?」

「うん」

「約束できる?」

「もちろん」


わざと不安げに義姉を見れば義姉は優しげに僕を安心させたい気持ちを全面に出して微笑んでいた。


「…約束守ってね、姉さん」

「!!!」


そんな義姉を見て、僕はいつものように愛らしい笑みの仮面をつけ、義姉のことを初めて「姉さん」と呼ぶ。すると義姉は目を見開いたあと「うん!」と本当に嬉しそうに笑った。

義姉のことは嫌いだ。それでもこの家で生きていく以上は彼女の理想の弟でなければならないだろう。



< 3 / 6 >

この作品をシェア

pagetop