一夜限りの恋人は敵対企業のCEO⁈【後日談有】
音楽家から薬屋を目指すまで
 学生時代の頃の私は、当たり前なのかもしれないけれど子供だった。

 例えて言うなら『月に触りたい』と願う私は、『手を空中に伸ばして月に触ったつもり』という幼さ。
『直接月に触れるには、どうすればいいのか?』という疑問を思い浮かべることもなく。
『ファイナルアンサー。宇宙飛行士の試験に受かって、月に行くチームに選ばれなければならない』

 夢を現実にするための道筋なんて、カケラも考えていなかった。

『私には音大に行く技量がある!』
 イコール、プロになれる資格が誰になくても私にはあると思いこんで疑っておらず。
 アーンド、家族が大賛成してくれると思い込んでいた。

 満を持して私が音大を受験したいと告げたとき、家族が固まってしまった。

 我が家には『製薬会社を経営している以上、多賀見の子女はドイツ語と英語を学ぶこと。及び、経営あるいは薬学を学ぶように』という暗黙のルールがある。

 勿論、強要できないことは両親もお祖母様も分かっている。
 むしろ外国語を学ぶのは、海外で演奏活動をする助けになるから積極的に学んでいた。

 お母様から『音楽は趣味で続きながら、経営学部を受験することは出来ない?』と婉曲的に頼まれた。
 けれど、音楽で食べていきたいと考えていた私は、うんと言えなくて。

 ひかるちゃんが過保護な叔父様にげんなりして、家業とは縁のない短大に進んだこと。

『俺がどっちも勉強すればいいでしょ』とお兄様が言ってくれたこと。
 二人のおかげで、私は音大に進学することが出来た。
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