「姫様、大丈夫ですから。ね?」

 黒狐が、焦ったように二本の尻尾でリリアを抱き寄せ、長い鼻先をすり寄せて宥めていた。

 リリアがこのように大泣きしたのは、これが初めてのことで、アサギは強く動揺していた。

「人間なんて嫌いよ……嫌い……大嫌いだもんっ」
「姫様、分かりました。頼みますから、どうか泣きやんでください。ほら、俺の尻尾を掴んで、ぐしゃぐしゃっとしても怒りませんから。それに耳だって掴まえてくれても全然いいですし!?」

 空中でうずくまる少女の周りを、続いて黒狐はおろおろと歩き回る。

 その時、ツヴァイツァーがその真下に歩み寄った。

「リリア」

 そう呼んで、彼が両手を広げた。

「リリア、俺の可愛いリリー。ほら、おいで。屋敷の中に戻ろう」

 ふっと顔を向けたリリアは、父の姿を認めた途端に一層ボロボロと涙した。その胸に飛んでいくと、そこにいる第二王子達も見ずにぎゅっと抱きついた。

 ツヴァイツァーが、しっかり抱えて歩き出す。それでも彼女は、一切顔を上げなかった。

「……父様、私…………もうこんなことしたくない」

 ぽつりと、泣き声でリリアは小さく訴えた。

 その震える体をぎゅっと抱きしめて、ツヴァイツァーは、少し悲しそうに微笑んで、

「――分かった」

 全て呑み込んだ表情で、そう頷いた。


 それから数日もしないうちに、レイド伯爵家の半妖令嬢リリアが、第二王子サイラスの婚約者になったことが発表された。