きみが空を泳ぐいつかのその日まで
一限目の国語の授業もやっぱり彼は眠ったままだった。
口がぽかんと開いてる。

黒髪が春の風にふわふわ揺れていて気持ち良さそう。
つやつやのきれいな髪。
寝顔は子供みたいにあどけない。

ふいに彼が何か呟いた。何て言ったのか聞き取れなかったけれど、まだ何か言い足りなさそうに口をもぐもぐしてるから、たぶん寝言だ。

こらえきれなくて吹き出してしまいそうなのを必死に我慢していたら、突然視界いっぱいに花吹雪が舞った。正門の桜が急な突風でいっせいに散ったらしい。

もうこれできっと見納めだな。
そう思ったら、すこしだけ切なくなった。

荼毘(だび)に伏す」

先生の板書を写しながら、特に意味もなくノートのはじにそう書いてみた。それは最近読んだ小説のなかに出てきて、気になって意味を調べた言葉だった。

でもカタカナで「ダビニフス」って書くと、ファンタジー小説に出てくる登場人物の名前に見えなくもない。

久住君は春のひだまりでまどろんでいる勇者で、魔王もこの季節に毒気を抜かれて、今はお互い休戦中ってところかな。

意識が自然と彼のほうに傾く。
睫毛、長いなぁって思ってしまった。
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