きみが空を泳ぐいつかのその日まで
戸惑い
ほとんどが葉桜になったというのに、空から花びらが降ってきた。
それが目の前をよぎってもよぎらなくてもやっぱり俺は眠たい。

足の痛みがだいぶ引いたから、自転車で登校できてよかった。

自転車を降りて昇降口へと向かいながらもしやと思っておそるおそる後頭部を触ってみたら、見なくてもわかるほどハネていた。

いままでにない寝癖だ。
寝てないのにすげー。
そう思いながら欠伸を噛み殺して靴を履き替えた。

「りー君おはよ!」
「……やめろよ。気持ちわるい」

後ろからダッシュでやってきた嶋野が俺の肩を抱いて冗談ぽくそう言った。

「懐かしかった? 今の」

朝からなんでそんな昔のことをいじってくるんだか全然わからない。

「おまえ何がいいたいわけ?」
「いやさ、最近このへんでちょくちょく見かけるんだよ、エリちゃん」
「エリ?あいつの学校このへんだっけ?」
「うわ、ひっでぇ元カレ!おまえサイテーだな」

それについては言い返せなかった。
一緒にいたあの短い時間を、つきあっていたと言っていいのかためらうほどだから。

「ビジュアルだけがおまえのウリだろーが!なんだよこの豪快な寝癖!彼女が今のこの姿見たら絶対泣くわ」
「ほっとけよ。おまえみたいに暇人じゃねーんだよこっちは」

素行不良が祟って最近授業中に仮眠もとれないし、ユキは前よりグズるようになった。
神崎さんはあれから学校を休んでる。

担任が言うには家の都合だとかしっくりこない理由だし、電話には出ない。
メールしても曖昧な返事が一回返ってきただけ。

なんかイライラする。
彼女の眼中に自分がいないことにちょっと腹が立つ。

仲がよかった女子に聞いてみようかと思っても、誰と一緒にいたかよく知らない。

探し物がみつかったのかもなんとなく聞けないし、学校外で頻繁に出くわしてたのが嘘みたいに駅周りでも姿を見かけない。

どうやったら彼女に会えるんだ? なんて口実を探すけどなんも思い浮かばないしなぁ。

寝癖も見た目も、今の俺にとってはどうでもいい。

「エリちゃんな、男と手繋いでたよ」
「へぇ、あっそ」

しつけーな。
嶋野のヤツ、なんで今頃?
そんな報告に今更動揺なんかしないのに。

「女子と喧嘩してんのも見た」
「相変わらず血の気が多いな」

あいつの怒ってる顔を思い出して少し笑ってしまった。

「しかもその言い争ってた女子ってのがさぁ……あーどうしよっかな。やっぱこれはこのまま黙っとくかぁ」

エサでもまいてるつもりかよ、そういう話に食い付くほど暇じゃねーってさっきから言ってんのに、とシカトを決め込んで階段を上った。

「くーずみっ! おはよっ!」
「はよ」

今度は戸田。

「来るの待ってたんだよ」
「……誰も頼んでねーし」

朝くらい静かに寝かせてほしい。

「わ、寝癖すごいじゃん!」
「すごいだろ、羨ましいか? じゃおやすみ」

席に着くと早速机に突っ伏した。

「理人寝るな、続きがあるんだって!その女子ってのがさ」
「うるさい。マジうるさい。おまえの話には興味ない」

神崎さんが来たら起こして、って言いそうになって、慌ててその部分を飲み込んだ。

「ねぇ寝癖直していい? 今日いろいろ持ってるんだ、この細いアイロン試したくて」
「戸田! おまえそれ計画的だろ。
しかも今俺が理人としゃべってんだけど」

この二人はなんでいつも人の耳元でどーでもいいことを言い合うのかわからない。

「うるせーからあっちでやれって。俺の眠りを邪魔する気なら殴られても文句言うなよ。忠告はしたからな」
「うわ出たよ、本性!」

嶋野は素直に席についたけど、戸田は隣の席の椅子をひっぱりだそうとした。

「椅子借りまーす、何ちゃんだっけここ。まぁいっか」
「そこはやめとけ」
「なんでー?」
「なんでもいいからさ」

彼女がまた行き場なくすだろ、とはなんとなく言えなかった。

「……ポーチ持ってくる」

戸田は少し不機嫌になって、いったん席を外した。その隙間に滑り込むみたいに嶋野が顔を寄せてきた。
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