没落人生から脱出します!
前世の記憶と幼馴染
 伯爵令嬢エリシュカ・キンスキーには前世の記憶があった。

 前世のエリシュカは、絵梨花(えりか)という名前の日本の女子大生だ。両親と祖母と弟と、田舎の広い家で暮らし、車で県庁所在地にある大学まで通っていた。
 そしてとある日の帰り道、飲酒運転の車が絵梨花の車に突っ込んできて、車は激しく損傷し、彼女は亡くなった。

 幼いエリシュカにとって、自分が生きた年数より長い前世の記憶はあまりにも膨大だ。そのせいなのかは分からないが、記憶は所々抜けていて、家族の顔をはっきりとは思い出せない。仲の良い家族だったということだけを覚えている。

 反対に鮮明なのは、バイト先だった百円ショップの品物や、電化製品など、物に関する記憶だ。今生きている世界にはない、電話や冷蔵庫といった便利な機械。ちょっとしたアイデアで暮らしを楽にする、雑貨たち。

 エリシュカはこれらがあったら、暮らしが楽になるのにと思って、家族にも何度も話した。
 けれど、世話係のサビナも、彼女から報告を受けた両親も、エリシュカの言っていることに眉を寄せるだけだった。
 彼女が五歳になる頃には、彼らはエリシュカを、空想家の子供なのだと思い、煙たがるようになっていた。

「タッパーがあると、便利なのにね、お母様」

 ピクニックのバスケットを見ながらエリシュカが言うと、母は不愉快そうに眉根を寄せる。

「またお得意の不思議な言葉ね? ねぇエリシュカ。タッパーって何? この世界にはない言葉を使わないでちょうだい」
「日本にあったの!」
「またニホン? エリシュカ、いい加減にして。お母様は忙しいの。空想の国で遊ぶのはおやめなさい」
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