東京ヴァルハラ異聞録
魂の世界で






『助けて』





一年前に、秋葉原駅のトイレに行った時の話だ。


手を洗っていた時、正面にある鏡を見ると、そこには女の人が映ってそう言っていた。


いや、声は聞こえなかったから、はっきりとそう言ったのかは定かではないけれど、多分そう言っていたんだと思う。


俺と重なるようにして映ったその像は、幻覚か見間違いかと目を疑ったけれど、確かにそこにあの女性はいた。


最初は驚いたけど……それよりも、女性の美しさに心を奪われてしまったのかもしれない。


すぐに女性は見えなくなったけれど、それから何度か同じように秋葉原駅のトイレに行ってみた。


だけど、あれから一度も見る事が出来なくて、次第に行かなくなったんだ。


その女性の事は今でもしっかりと覚えている。


あれほど綺麗な人に出会った事がなくて、ずっと追い求めているのかもしれないな。


現実に存在しない、幻の女性が恋の相手。


高校三年の秋。


いい加減もう忘れなきゃならないなと思い始めていたのに……。


友達の拓真と麻衣に誘われて行った秋葉原で、再び運命が動き出すのを感じる事になった。


これは、誰にも知られない物語。
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