無口な彼の熾烈な想い

じわり忍び寄る・・・

翌日は空気の澄んだ爽やかで冬らしい陽気だった。

21時にはベットに入り、それ以降の記憶は一つもないためおそらく寝落ちしたのだろうと思う。

右手に持ったままのスマホは真っ黒な画面となっており、スイッチを押すと固まったゲームのアプリ画面が現れた。

「昨日のログインボーナスゲットし損ねた・・・」

現在のマイブームの一つである乙女ゲーム。

推しメンからの好感度や新密度をあげたり、貴重なスチル(動きのない静止画、1枚絵)をゲットするため、ゲームにはさまざまな工夫やアイテムが用意されている。

中でも期間限定などのレアキャラスチルやアイテムを得るための有料アイテムとやらも存在するのだが、鈴はそこまで手を染めていない。

時には万単位のお金を注ぎ込む゛ガチ勢゛と呼ばれる、高額の課金を惜しまないファンの方々がいらっしゃるお陰で、ゲーム会社は潤い、ゲームの内容も進化し続けることができるので感謝の一言しかない。

お金をかけずに、時間で回復するライフと僅かな引き運で激レアゲットを狙う゛非課金勢゛。

そうした非課金勢の鈴にとっては、ただでも毎日もらえるログインボーナスは貴重なのだ。

ふと見ると、固まった画面の左上に、SNSの着信があったことを知らせるマークが表示されていた。

鈴は、SNSのアプリのマークを確認すると、今まさに考えていた乙女ゲーム友達、かなえからのメッセージの着信であった。

鈴の唯一の親友ともいえる、待鳥かなえ(まちどりかなえ)26歳は本物の2次元オタクでガチガチの課金勢だ。

熱狂的なゲームファンは、推しメンのスチルや特殊なストーリーを読む権利欲しさにおこづかいやアルバイト代を惜しげもなく注ぎ込む。

かくいう彼女もその一人で、中学・高校と美術部に所属していたが、絵画というよりは漫画やイラストなどの二次制作に勤しんでいた。

゛夢女子゛

それは、ゲームやアニメ、漫画、小説の推しメンと自分で制作したオリジナルキャラ(時に自分の分身)との疑似恋愛を楽しむ乙女な女子を指す。

彼女らは時にオタクと呼ばれるが、ネクラと称されていた昔とは違い、声優や2.5次元舞台俳優人気も相まって、社会での認知度も上がり、確立した生存権も得てきている。

しかし、彼女達がのめり込む独自の世界に、超現実主義だった鈴は、かなえと出会った当初は全く理解することができなかったものだ。

仲良くなったきっかけは同じクラスになった高校2年生の文化祭。

たまたま一緒にクラスの出し物を紹介するパンフレット制作担当となり、鈴がまかされた動物の挿し絵をガチでリアルに描いてみせたのが友情の始まりだった。

当時のかなえは゛ケモミミ゛いわゆる動物と人間のハーフ゛獣人イケメンゲーム゛にはまっていたのである。

そんなこんなで文化祭後も、ケモミミ獸人の二次制作を手伝わされるはめになり、鈴はそれまで関わることのなかった人々との人脈を意図せず拡大していくこととなる。
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