無口な彼の熾烈な想い

絢斗の過去

「鈴先生、ごめんなさい。お待たせしました。母の暴挙に加えて絢斗の我が儘なんて。恥ずかしくて申し訳ないわ」

イケメントリオが去ってから10分くらいが経過した頃だろうか?

母親を追い返した?らしき綾香が息せき切ってVIPルームに戻ってきた。

その時点で、職業柄かなりの早食いを自負する鈴は、もう半分近くの料理を食べ終えていた。

しかし、この可愛らしく愛嬌のあるパンだけは・・・シロちゃん達のパンだけは、お腹におさめるのが惜しくて食べることを躊躇してしまう。

メインディッシュは気の切り株をイメージした牛肉のフィレステーキだった。

そちらもすでに食べ終えたばかりだ。

さすがに猛禽類の童話の世界に鳥の肉を使うのは倫理的に?いや情緒的にもアウトだよなぁ、と鈴の思考が宙に浮きそうになった時、鈴は綾香の存在を思い出した。

「いえいえ、自分で考案した料理を自分で調理したいっていう料理人の気持ちはわかる気がしますし問題ないです。それに、一人で料理の世界を妄想しながら料理を頂くのもオツなものでしたよ」

一つ一つスマホの写真におさめながら、鈴は味わいながら料理を頂いた。

そのすべてに感謝の気持ちを述べながら、料理を口に運ぶ鈴の様子は、綾香の荒みかけていた心に暖かな風を送り込んでくれるようだった。

「パン・・・。もったいないけど食べないと。食べない方がもったいない・・・けど辛い」

ブツブツと葛藤を述べる鈴が可愛らしい。

「いや、食べる!やってやる!」

とうとう覚悟を決めた鈴は、思いきってシロちゃんの頭からかぶりくという暴挙に出たかとおもうと

「なにこれ、美味しいですぞ?シロちゃんはパンになっても万能ですな」

と、おかしな口調で感想を述べて微笑んだ。

「鈴先生は見ていて飽きないわね」

綾香の苦笑に、ハッと我に返った鈴は

「いつも無表情もしくは作り笑いで何考えているかわからないと言われているんですけどね。美味しいは正義なのでしょう」

彩月の来襲も、絢斗の暴挙も、鈴にとっては日常における些細な非日常のようで、常に目の前のことに全力投球する鈴に綾香は救われるようだった。
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