離婚するはずだったのに、ホテル王は剥き出しの愛妻欲で攻めたてる
初めての夜
「はっ? 高城悠人と結婚?」

 格子の扉で中から廊下が窺えるようになっている居酒屋の個室に、郁実(いくみ)の驚愕した声が響く。

「おい、まつり。本気で言ってんのか?」

 二重まぶたの大きな目を剥き、続けてそう言い放つ茶髪の男性に、私は机に前のめりになり「ちょっと、郁実。声が大きい」と小声で一喝する。

「わりぃ……」

 そう言って運ばれてきたばかりのビールジョッキに口をつけるのは、私の同い年で幼なじみの和倉(わくら)郁実だ。

 高城にパーティーで会ってから数日後。私はカフェの遅番の勤務を終えたあと、店の最寄り駅のそばにある居酒屋で郁実と合流した。

 八百屋を営んでいる郁実の家と『あいの豆腐店』は都内の同じ商店街の隣同士にあって、私たちは物心ついたときから互いがそばにいた。

 ふたりともひとりっ子で親も商売人なこともあり、幼いときは幼稚園や小学校から帰るとだいたい店が終わる時間になるまでどちらかの家で遊んでいた。
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